消費者庁による景品表示法に基づく措置事件の概要(令和4年)について
1. はじめに
2023(令和5)年2月14日に、令和4年における消費者庁による景品表示法に基づく措置事件の概要が発表されました[1]。
令和3年は措置命令が41件、課徴金納付命令が15件あったのに対し、令和4年は、措置命令が34件、課徴金納付命令が6件となっています。
措置命令が出た際に報道もされておりますのでご存知の方も多いかもしれませんが、この機会に、今後も参考になると思われる事例について、要点をまとめてみました。
[1]景品表示法に基づく法的措置件数の推移及び措置事件の概要の公表(令和5年2月28日現在)
2. 不当景品類及び不当表示防止法(「景表法」)
事例に入る前に簡単に問題となる法律についておさらいします。
措置命令の根拠となる法律は景品表示法です。中でも化粧品や健康食品の広告で問題となることが多いのは、優良誤認表示の禁止(景表法第5条第1号)及び有利誤認表示の禁止(同第2号)です。
優良誤認表示の禁止は、事業者が、自己の供給する商品・サービスの取引において、その品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し実際のものよりも著しく優良であると示すもので、具体的には、商品・サービスの品質を、実際よりも優れていると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に優れているわけではないのに、あたかも優れているかのように偽って宣伝する行為が該当します。
有利誤認の表示は、事業者が、自己の供給する商品・サービスの取引において、価格その他の取引条件について、一般消費者に対し、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるもので、具体的には、商品・サービスの取引条件について、実際よりも有利であると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に安いわけでもないのに、あたかも著しく安いかのように偽って宣伝する行為が該当します。
化粧品、医薬部外品、医薬品の広告に適用される、薬機法が表現の内容自体を規制しているのに対し、景表法は、平たく言えば、嘘が書かれていないか(合理的な根拠があるか)、合理的根拠がないにもかかわらず、消費者が誤解する表現がないか、という観点で判断されます。逆に言えば、薬機法上は合法でも、景表法違反とされる可能性があるということです。
消費者庁が、これらの不当表示に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができます。(景表法第7条第2項)
そして、不当表示と認められた場合は、行為の差止め、再発防止措置、公示等の措置命令(景表法第7条第1項)、さらには、課徴金納付も命じられることがあります。(景表法第8条)
3.措置命令の内容
それでは以下、2022年に措置命令がでた事例から参考になると思われるものをご紹介します。
(1) 脱毛エステサロンのウェブサイトにおける表示
脱毛エステサロン(セブンエー美容株式会社、株式会社ダイシン、株式会社エイチフォー)のウェブサイトにおける表示について、有利誤認にあたるとして、)表示が景表法違反であることの告知、再発防止策を講じる、今後同様の表示を行わない等の措置命令が出されました。
【表示】 【実際】 |
会社側からの弁明によると、月額4,227円という金額は、全身脱毛62部位3回コースを60回払にした場合の月々支払額(支払総額86,805円)ということでした。
(2) 痩身効果および筋肉増強効果を謳った加圧シャツの商品ページにおける表示
2019年にも、いわゆる加圧シャツを販売する9社に対して一斉処分がされましたが、昨年は、その中の1社である株式会社ココカラケアに対して再び表示が景表法違反であることの告知、再発防止策を講じる、今後同様の表示を行わない等の措置命令が出されました。
【表示】 【実際】 |
(3)エステサロンの顧客満足度の表示について
株式会社PMKメディカルラボが経営するエステサロンのウェブサイトにて、あたかも、 楽天インサイト株式会社が実施したPM Kメディカルラボが提供する本件2役務及び他の事業者が提供する役務と同種又は類似の役務を利用した者に対する施術満足度の調査の結果 において、PMKメディカルラボが提供する役務に係る施術満足度の順位が第1位であるかのように示す表示をしていたところ、実際は当該サービスにおける施術満足度が第1位ではないことから、有利誤認にあたるとされました。
結果、再び表示が景表法違反であることの告知、再発防止策を講じる、今後同様の表示を行わない等措置命令が出されました。
【表示】 【実際】 |
この件に関しては、依頼した広告会社や調査会社側がデータを恣意的にいじっていたようで、会社側はその事実を知らなったと弁明しているとも報道されています。たとえ、会社が全く知らず、依頼した広告会社や調査会社からの数字をそのまま使用したとしても、法律上は、表示をした会社に責任が生じることに、注意が必要となります。
(4)健康食品の表示
山田養蜂場の「ビタミンD+亜鉛」という名称のサプリメントの事例です。あたかも新型コロナウィルスの感染予防及び重症化予防の効果を得られるかのように示す表示が行われていたため、表示が景表法違反であることの告知、再発防止策を講じる、今後同様の表示を行わない等の措置命令が出されました。
【表示】「新型コロナウイルス “第6波”に警戒を <感染>と<重症化>どちらも予防したい…お客さまの声に応えて 『ビタミンD+亜鉛』 2021年11月1日(月) News Release 1 新発売」「■感染と重症化に備える『ビタミンD+亜鉛』 山田養蜂場にも、多くのお客さまから『予防だけでなく、もし感染しても重症化しないよう、今すぐできる対策をしたい』との声が寄せられております。そのようなご要望にお応えするため、このたび抗菌ペプチドの産生をサポートする『ビタミン D』に、身体の免疫力をサポートする必須ミネラル 『亜鉛』『ビタミン A』『ビタミン B6』『ビタミン C』を配合し、一粒に凝縮した製品を開発いたしました。『ビタミン D』と『亜鉛』は、ともに新型コロナウイルス感染時の重症化を防ぐ可能性が研究報告され ており、いま注目されている栄養素です。」等 【実際】同社から資料が提出されたが、当該資料はいずれも、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠 を示すものであるとは認められないものであった。 |
(4)石鹸の広告文言の表示について
消費者庁は、有限会社ファミリア薬品に対し、同社が「芦屋美蓉館」の名称で供給する「朱の実」と称する商品に係る表示について、459万円の課徴金納付命令を発出しました。
【表示】「年齢のせいにしていた、そのシミ… 老斑 ろうはん が消えた!?」、「そして…今すでに出来ているシミを薄くする。」等 【実際】資料が提出されたが、当該資料は当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すも のとは認められないものであった。 |
4. おわりに
以上、主だった事例を簡単にご紹介しました。各会社から、合理的根拠として提出された内容がどのようなものであり、そしてそれをどのように消費者庁が判断したのかということまでは公表されていません。しかし、少ない公表資料の中からでも、措置を受けた事例について分析し、自社の広告表現に生かすことが必要です。
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