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【AI × ビフォーアフター広告】進化する画像表現と法的リスクの現在地 ―AI画像活用のトレンドと、薬機法・景表法から見る注意点―

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化粧品業界や美容関連サービスにおいては、「目で見える効果」が重要視されるため、広告に「ビフォーアフター画像(使用前・使用後の比較写真)」を使用することは極めて有効なマーケティング手段とされています。ビフォーアフター広告は、保証禁止違反(アフターの効果が生じることを保証するため)として使うことができないとされていましたが、2017年9月に医薬品等適正広告基準の改正があり、条件付で使用できるようになりました。

本記事では、「AI時代のビフォーアフター画像広告」について、その最新トレンドと法的リスクを整理し、実務的に注意すべきポイントを詳しく解説します。

1.AI時代の広告トレンド:「画像のリアリティ」と「瞬時の生成性」

■ AIの進化で「よりリアル」な“仮想的結果”が制作可能に

画像生成AI(例:Midjourney, DALL·E, Stable Diffusionなど)やフォトレタッチAIの進歩により、リアルに見える広告の画像を容易に作成できるようになりました。

例えば:

  • 肌のしわを自然に消した使用後画像

  • AIによって合成された“理想的な”美肌イメージ

  • 実在モデルの画像を微細に加工した擬似的な変化例

をAIで作成することも簡単にできます。

しかし、実際の写真をよりよく見えるように加工したり、事実よりもよい画像を作成して使用すると、景品表示法違反となるので注意が必要です。使用できるのは事実に基づく画像だけです。またAIの画像を使用したビフォーアフターの画像にも薬機法が適用され、表現できる内容など、様々な法規制があります。以下で検討します。

2.ビフォーアフター画像の使用に関する法規制

上記のとおり2017年9月にビフォーアフターの広告が可能になりましたが、一般的に化粧品の広告に適用される薬機法や景品表示法にも違反しないように注意する必要があります。

(1)医薬品等適正広告基準(薬機法)

①ビフォーアフター

薬機法上、誇大広告が禁止されていますが、上記のとおり、その運用解釈を示した医薬品等適正広告基準が2017年9月に改正され、条件付でビフォーアフターの広告を使うことができるようになりました。具体的には、以下の3項目のいずれにも該当しないこと必要です。

  1. 承認されていない効能・効果を示唆するもの

  2. 効果発現の時間や持続期間を保証するような表現

  3. 安全性を保証する表現

 

■ 厚労省が示した「不適切なビフォーアフター画像」の事例

平成30年8月8日付の厚生労働省の事務連絡では、ビフォーアフターの画像のうち、以下のような事例が「広告として不適切」とされています。

事例7:「メラニンの生成を抑え、シミ・ソバカスを防ぐ」といった効能が認められている薬用化粧品の広告において、シミ・ソバカスのない肌と、 製品使用後に紫外線暴露してもシミ・ソバカスが目立たない肌の写真を使用する場合

事例8:「ひび・あかぎれを防ぐ」薬用化粧品について、ひび・あかぎれのない肌、製品使用後もひび・あかぎ れのない肌及び無塗布でひび・あかぎれした肌の写真を使用する場合。

認められない理由として、「「防ぐ」との効能効果を使用前・後の写真等で表現することは不可能なため」とされています。

 この事務連絡では、「防ぐ」との効能効果についてのみ認められない例として挙げられていますが、この事務連絡がでてから、運用はどんどん厳しくなり、上記1~3の禁止事項が厳格に解釈されるようになっているので、注意が必要です。

 

 ②化粧品の効能・効果表現は「56種類」に限定

化粧品の広告で使用できる効能効果表現は56種類に限定されており、それを超える訴求は、ビフォーアフター画像にかかわらず、いかなる手法でも薬機法違反となります。たとえば、「たるみを改善」「小顔になる」といった表現は、これら56種類に含まれていないため、たとえ事実であってもいかなる広告にも使用することはできません。

ただし、「化粧くずれを防ぐ」、「小じわ を目立たなく見せる」、「みずみずしい肌に見せる」等のメーキャップ効果 や「清涼感を与える」、「爽快にする」等の使用感を表示して広告することは、化粧品の効果効能ではないので、事実に反しない限り認められています。

なお、仮に56種類の効能効果内であっても、ビフォーアフターの画像に、効果発現の時間や持続期間を保証するような表現をいれることは違反とされる可能性があるので注意しなければなりません。

 

(2) 実際よりも効果があるように見える場合(景品表示法)

景品表示法第5条第1号は、事業者が、自己の供給する商品・サービスの取引において、その品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、

(1)実際のものよりも著しく優良であると示すもの

(2)事実に相違して競争関係にある事業者に係るものよりも著しく優良であると示すもの

であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示

を禁止しています(優良誤認表示の禁止)。

生成AIによって加工・創出された「理想化されたビフォーアフター画像」が、実際よりも良い効果を“視覚的に誤認させるものである場合で、消費者庁による調査の結果、景品表示法の「優良誤認表示」(第5条第1号)に該当することが認められた場合は、消費者庁は、当該行為を行っている事業者に対し、不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる「措置命令」を行います。

違反の事実が認められない場合であっても、違反のおそれのある行為がみられた場合は指導の措置が採られます。また、消費者庁は、その他の要件を満たす限り、当該事業者に対し、課徴金の納付を命じます(課徴金納付命令)。さらに、事業者の自主的な取組により解決するための「確約手続」が導入されています。

 3.AIはどこまで使えるのか

AIの画像を使うこと自体が禁止されているわけではありません。 AIリタッチもメーキャップ程度のものであれば許容されますが、実際よりもよい画像や実際の写真を加工した写真を実例のように使い、実際にはその化粧品では得られないような劇的な効果が得られるような印象を与えれば、景品表示法の優良誤認表示違反や、薬機法の虚偽・誇大広告等の禁止違反とされる可能性があります。

AIで作成したり加工した本物のように見える画像については、「イメージ画像です」等実際の画像と誤解されないよう明記する必要がある場合が多いと思われます。

しかし、「この画像はイメージです」「AI生成による合成写真です」などの明記をしたからといって、実際よりも著しく優良であると示すものが認められるわけではありません。そのような記載をしても、実際よりも良い効能効果があるように見える画像を使えば、上記優良誤認表示や虚偽・誇大広告とみられる可能性があるので、注意する必要があります。

この際の判断基準として、一般消費者がその広告を見てどのような印象をうけるか、ということが一つの判断基準となります。

以上AIの画像を使ってビフォーアフターの広告を作成する時の注意点を簡略にまとめると、以下のようになります。

 

リスク領域

実務上の対応策

薬機法違反(医薬品等適正広告基準)

化粧品の認められた効能56種類を逸脱しない表現に限定/効果を保証しない構成にする

景表法違反(優良誤認)

実際の使用結果に基づくデータとの整合性を確認/AI画像と実例の区別を明確にする。

AI画像に関する誤認防止

「イメージ画像」「AI生成画像」の明示/AI画像使用の社内ガイドライン整備

 

AIによって広告のクリエイティブ表現は劇的に変化していますが、そのぶん法的な判断もより複雑になっています。

特にビフォーアフター型の広告においては、「効果の保証」「使用前後の誤認」を招きやすいため、AI画像の活用は常に薬機法・景表法の視点での確認が不可欠です。

今後は、企業内でのAI画像使用ポリシーの明文化や、広告制作段階での専門家による事前チェックが重要なリスク管理となっていくでしょう。当事務所では、美容、健康業界の広告規制に関し多くの案件を取り扱っております。どうぞお気軽にご相談ください。

【補足】
本稿は2025年7月時点の法令・通知に基づいて記載しています。