消費者庁が大正製薬株式会社に対し「ステルスマーケティング規制」に基づき措置命令処分
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目次
はじめに
2024年11月13日に、大正製薬株式会社(以下、大正製薬)は、消費者庁より措置命令を受けました。
ステルスマーケティング規制は、2023年10月に施行されました。ステルスマーケティング規制は景品表示法による規制ですので、調査の結果、違反行為が認められた場合は、消費者庁は、当該行為を行っている事業者に対し、不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる「措置命令」を行います。
ステルスマーケティング違反に基づいた措置命令は、医療法人祐真会、RIZAP株式会社に続く、3例目となります。
ステルスマーケティング規制
本件処分の根拠とされた景品表示法第5条3号に、「商品または役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」と規定してあります。
そして、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(令和5年内閣府告示第19号)で、一般消費者に事業者の表示でないと誤認される、又は誤認されるおそれがある表示を、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある不当な表示として規制するものである、とされています。これがステルスマーケティング規制です。
事実の概要
対象商品:「NMN taisho 」と称するサプリメント
大正製薬は、当該商品の無償提供及び対価の提供を条件に、本件商品に関してインスタグラムでの投稿を第三者に依頼し、その投稿画面を一部抜粋して、自社ウェブサイトにおいて、「Instagramで注目度上昇中⤴」「品質にこだわりたい方には特許処方の大正製薬『NMN taisho』」、本件商品を持つ人物の画像 及び「いくつになっても自分らしく、ʻʼ今が最高ʻʼと思える活き活きとした日々を過ごしていきたいですね!」等と表示しました。(下記参照)
消費者庁の見解
この表示について、消費者庁は、大正製薬は、本件商品に係る同表「表示内容」欄記載の表示内容の決定に関与しているものであり、当該表示は、大正製薬が自己の供給する本件商品の取引について行う表示であると認められるところ、大正製薬は当該第三者に対して依頼した投稿であることを明らかにしておらず、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められないことから、当該表示は、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難であると認められる表示に該当するものであった旨判断しました。
処分
景品表示法に違反する行為(同法第5条第3号(ステルスマーケティング告示)に該当)
命令の概要(大正製薬ホームページより)
① 本件について、消費者庁長官の承認を得た方法にて、一般生活者に周知徹底すること。
② 今後、同様の表示が行われることを防止するために必要な措置を講じ、本件について自社の役員及び従業員に周知徹底すること。
③ 今後、同様の表示を行うことにより、自己の供給する商品の取引について行う表示であって、一般生活者が当該表示であることを判別することが困難であると認められる表示をしてはならないこと。
④ 上記①及び②に基づいて行った周知徹底及び措置について、消費者庁長官に報告すること。
大正製薬による発表
この措置命令を受けて、大正製薬は行政処分を受けた旨、及び下記のように経緯を発表しています。(大正製薬ホームページより)
「当社は、インフルエンサーに対して本商品の無償提供及び対価の提供を条件に本商品に関する投稿を依頼し、2023年6月にインフルエンサーによるSNSへの投稿がなされました。当該投稿につきましては、一般生活者が当社の広告であることを判別できるように「#PR」等の表示をしておりました。
その後、当社は当該インフルエンサーの投稿の一部を抜粋し、自社ウェブサイトに表示しました。その際、自社ウェブサイト上に表示しているものであることから、一般生活者においては、インフルエンサーの投稿部分についても当社の広告であることが判別できると考え、その投稿に表示されていた当社の広告である旨を表示せずに、以下のとおり表示しておりました。」
大正製薬ホームページによると、インスタグラム上での表示は下記の通りだったということです。
本件の注目点
本件では、確かに、インスタグラム上では、投稿に#PRとのハッシュタグがつけられていますが、自社ウェブサイトにのせる際に、それらの広告とわかる表示を消してのせてしまったところが問題とされました。
それに対し、大塚製薬の弁明としては、自社ウェブサイトであることから広告であることは自明である。従って、インスタグラムの投稿の抜粋について広告表示を消してもよいだろうと考えた、というものです。
この点、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準(令和5年3月28日 消費者庁長官決定)には、「事業者の表示であることが一般消費者にとって明瞭である又は社会通念上明らかであるものは、告示の対象となるものではない。」、すなわちPR等の表示が必要ない場合との例として、以下をあげています。
「事業者自身のウェブサイト(例えば、特定の商品又は役務を特集するなど、期間 限定で一般消費者に表示されるウェブサイトも含む。)における表示を行う場合」
大正製薬は、本件は、大正製薬自身のウェブサイトにおける表示のため、PR等の表示は必要ないと判断したのかもしれません。
しかし、消費者庁は、自社ウェブサイトであっても、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められないと判断しました。
ステルスマーケティングに関するQ&A
冒頭に述べたように、同様の事例として、RIZAP株式会社が、第三者に対し、対価を提供することを条件に、Instagramに投稿を依頼したことによって当該第三者が投稿した表示を、RIZAPが依頼した投稿であることを明らかにせずに抜粋するなどして表示をしていたことについて、ステルスマーケティング告示等に違反するとして、令和6年8月8日に措置命令を受けたという事例もあります。
消費者庁から発表されている、ステルスマーケティングに関するQ&Aでは、下記の記載があります。
【Q16】
当社では、プロモーションのために、インフルエンサーに依頼をし、当社の商品についてSNSに投稿をして貰いました。この度、当該投稿を抜粋し、「お客様の声」として自社ウェブサイト内に掲載することを検討していますが、告示との関係で注意すべき点はありますか。なお、インフルエンサーの投稿が「事業者の表示」に当たることを前提としています。
【回答】
「お客様の声」という場合、通常、顧客の自主的な意思に基づく感想等が記載されていると理解されるため、「事業者の表示」に当たるインフルエンサーの投稿を、「お客様の声」として自社のウェブサイト上に掲載することは適当ではありません。
「事業者の表示」に当たるインフルエンサーの投稿を掲載する場合は、自社の依頼したインフルエンサーの投稿であることが、ウェブサイトを見た一般消費者にとって明瞭になる形で表示する必要があります。
消費者庁の見解としては、「お客様の声」としてのせるものが、事業者から依頼されたインフルエンサーによるものであるということは明示しなければならない、ということになります。
このように思わぬことで、措置命令をうけることを防ぐために、こちらのステルスマーケティングに関するQ&Aを参照することをまずはおすすめします。
おわりに
確かに本件では、投稿が大正製薬の依頼によるもので分かるものはすべて削除されており、かなり編集されています。そのように依頼であることが分からないようにしたものをお客様の声という名目で掲載するのは、景表法におけるステルスマーケティング規制の対象になると考えられるでしょう。
このような案件は、結局は企業側に損失が生じます。ランディングページの作成も、業者まかせにせず、企業側の担当者がしっかり法律の趣旨を理解し、規制の対象にならないかを判断する必要があります。
特に、ステルスマーケティング規制の運用はまだ始まったばかりですし、広告手法も日々変遷しますので、当該法律や過去事例に精通した弁護士に相談することも有効です。