エステ広告と景品表示法<ソシエ事件から見るクーポン表示の法的リスク>
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目次
はじめに
2026年3月3日に、消費者庁は、株式会社ソシエ・ワールド(以下、「ソシエ社」といいます。)による下記行為に係る景品表示法違反被疑事件(以下、「ソシエ事件」といいます。)において、ソシエ社から認定の申請のあった確約計画は、ソシエ社の行為による影響を是正するために十分なものであり、かつ、その内容が確実に実施されると見込まれるものであると認め、当該確約計画を認定した旨の発表がありました。(詳細は、こちらをごらんください。)
この記事では、
- ソシエ事件の法的ポイント
- エステ広告と景品表示法の関係
- 美容業界のクーポン広告のリスク
- ポータルサイト型集客モデルの問題
について解説します。
ソシエ事件の概要(エステ広告と有利誤認表示)
令和3年9月23日から令和7年5月28日までの間、「HOT PEPPER Beauty」と称するウェブサイトに掲載された各店舗のページ内の「クーポンメニュー」と称するページで提供するクーポンにおいて、例えば、「ボディ人気No.1!!【身体スッキリ】むくみ改善全身オールハンド55分¥31,185→」、「¥4,400」、「有効期限: 2025年05月末日まで」等と表示することにより、あたかも、当該クーポン記載の期限内に当該クーポンを利用して申し込んだ場合に限り、割引が適用された価格で本件役務の提供を受けることができるかのように表示していました。
しかし消費者庁の調査によれば、表示された期限が経過した後も同様の割引価格が提供されていたことが確認されました。つまり、消費者に対して「現在だけ特別に安い価格である」という印象を与える表示であったにもかかわらず、実際には常時同じ価格で提供されていたということです。
このような表示は、景品表示法第5条第2号により禁止されている「有利誤認表示」に該当する可能性があります。
有利誤認とは
有利誤認とは、商品やサービスの価格や取引条件が実際よりも著しく有利であるかのように消費者に誤認させる表示を指し、景品表示法により禁止されています。今回のケースでは、「期間限定」という表示が来店を促す誘因として機能していたにもかかわらず、その限定性が実態を伴っていなかった点が問題視されました。なお、故意に偽って表示する場合だけでなく、誤って表示してしまった場合であっても、有利誤認表示に該当する場合は、景品表示法により規制されることになりますので注意が必要です。
この構造を整理すると次のようになります。
|
表示 |
実態 |
法律評価 |
|
期間限定クーポン |
実際には常時同価格 |
有利誤認表示 |
要するに、「今だけ安い」という印象を与えながら、実際にはいつでも同じ条件であった点が問題となったのです。
確約手続とは何か
消費者庁による調査の結果、景品表示法違反行為が認められた場合は、消費者庁は、当該行為を行っている事業者に対し、不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる「措置命令」や「課徴金納付命令」を行うのが通常でした。しかし、本件では、消費者庁が措置命令ではなく「確約手続」を採用したことです。
確約手続とは、企業が自主的に違反行為の是正や再発防止策を講じることを約束した場合に、行政が正式な違反認定を行わずに手続きを終了させる制度です。令和5年の景表法の改正法により採用された制度であり、企業側に早期の是正を促すとともに、行政手続の迅速化を図る目的で導入されました。
具体的には、消費者庁は、違反被疑行為について確約手続に付すことが適当であると判断するとき、違反被疑行為者に対して確約手続通知を行います。被通知事業者は、確約認定申請をする場合、確約手続通知を受けた日から60日以内に確約認定申請をする必要があります。確約認定申請をした場合、消費者庁は、認定要件に適合するか否かの判断を行い、当該確約計画が認定要件に適合すると認めるときには、当該確約計画の認定をします。
この制度については、消費者庁の解説ページも参考になります。
(外部リンク例:消費者庁「確約手続制度」)
美容クーポンで注意すべき点
美容業界の広告では、体験価格やクーポン価格を入口として顧客を獲得するビジネスモデルが広く採用されています。しかし、場合によっては景表法違反とされる可能性がありますので、クーポン価格等特別価格を採用する場合は、景表法に違反しないように細心の注意を払う必要があります。
二重価格表示
クーポンで問題となりやすいのが「二重価格表示」です。例えば、通常価格30,000円と表示したうえでクーポン価格9,800円を提示する広告があります。しかし実際には、通常価格での取引がほとんど行われていない場合があります。
景品表示法では、比較対象となる価格は実際に販売されている価格である必要があるとされています。実際に販売実績のない「通常価格」を基準に割引を表示する場合、有利誤認表示と評価される可能性があります。当該「通常価格」で実際に販売したことがあるとしても、その期間や時期に注意する必要があります。たとえば、実際に販売した価格であっても、当該期間が短ければ、「通常価格」として表示すれば景表法違反にあたります。
期間限定表示の常態化
他に問題になりやすい点として「期間限定表示の常態化」です。美容ポータルサイトでは毎月クーポンが更新されることが多く、「今月限定」「期間限定」といった表現が頻繁に用いられます。しかし、内容がほぼ同じクーポンが継続して掲載される場合、実質的には限定性が存在しない可能性があります。今回のソシエ事件は、この典型例といえるでしょう。「限定」とする以上、限定しなければならない、ということです。間をどのくらいあければ「限定」といえるのかなど細かい点を検討する必要があります。
初回価格
さらに、「初回価格」の問題もあります。多くのエステサロンでは、新規顧客向けに初回体験価格を設定していますが、系列店舗を利用することで再度初回価格が適用されたり、別のメニューを利用することで同様の割引が受けられたりする場合があります。このように初回価格が実質的に常態化している場合、表示内容と実態との乖離が生じる可能性があります。系列店舗の場合「初回」と明記してもよいのかも景表法の問題として違法といわれないように検討する必要があります。
ポータルサイトの役割(ホットペッパービューティー)
美容業界の多くの店舗は、予約ポータルサイト ホットペッパービューティを通じて集客しています。このサービスは株式会社リクルートが運営しており、加盟店舗はクーポンやメニュー情報を掲載することができます。
リクルート側も掲載ガイドラインを設けており、比較価格の実在性や条件表示の明確化などを求めていますが、広告内容の作成主体は店舗側です。そのため景品表示法違反が認定された場合、行政処分は通常、掲載店舗の運営会社に対して行われます。
今回の事件が示す本当の論点
美容業界では長年にわたり、「体験価格」「初回限定」「期間限定クーポン」といったマーケティング手法が一般的に用いられいます。しかし、これらの表示が実態を伴わない場合、消費者の判断を誤らせる表示として規制対象となる可能性があります。
まとめ
実際には、初回限定クーポンを使ってお店を渡り歩く顧客が多い現実の中で、初回来店した顧客をいかに再来店するようにするかはエステサロンや美容院にとっては経営上の大きな課題です。最終的には掲載店舗側の責任であるため、他のお店がやっているから、では通用しないことを認識することが必要です。
ソシエ事件は、美容業界のクーポン広告モデルのリスクを示した事例といえます。注意をする必要があります。




